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このタイトルのままでいいのかしら。

*今回の追加人物*
藪茂 しいね (やぶしげ しいね)
屋敷建の親戚。つまり椚原の二人にとっては遠縁であり翔とは同級生。 しいねの両親が留守気味な椚原家の厄介事引き受け係と化しているので3兄弟は頭が上がらない。ついでにしいね相手にも頭が上がらない。



…◇◆◇…

「笛は歌う」


玄関のベルが軽い音と共に来客を知らせる。
 台所で夕飯のお菜の仕込みの真っ最中だった建は、濡れた手を手早く布巾で清め、壁に取り付られたインターホンのスイッチを押した。
わざと意識した子供っぽい口調を作る。
 「は~い?誰ですかぁ?あのぉ、大人の人がいないんで、せーるすもかんゆーもお断わりしてまーす♪」
 一瞬の間の後、インターホンから、冷めた口調の返事が戻って来た。
 「…あら…ステキな応対方法を教わったわ。私も、今度試してみましょう。」
 家庭用の、ちょっと粗悪なインターホンを通してさえ、聞き間違え様の無いその声音に、建の口もとが、微妙なひきつりを見せた。
 「げげっ。もしかして、しーねちゃん?」
 「仕方無いでしょう?呼ばれたのは私の方なんだから。…(げげ)は、お邪魔してもいいのかしら?」
 「ははは。やだなぁ、しーねちゃんってば。呼んだって?翔が?しーねちゃんなら、どんどん上がって来てくださいよ。」
 「あら。親しき仲にも礼儀有り。でしょ?じゃ、お邪魔します。」
 「はいはい。お待ちしてますよー」
インターホンごしにそう答えスイッチを切ると、建はたったいまゴールしたばかりのマラソンランナーのような疲れた仕草で、スイッチを切った。
 「おーい!翔!しーねちゃん来たぞーっ!」
 台所を出しなに、2階を仰いで弟に声をかけ、その足で玄関まで迎えに出向く。
そこには、弟と同い年の少女が、不機嫌にさえ見える無表情で立っていた。
 両手に下げたフェルトのお道具袋から、パンフレットのような薄い冊子や、革の筒が頭を覗かせている。
 「こんにちは」
それだけ言うと、少女は、自分の家に上がる以上の気安い仕草で靴を脱ぎ、さっさと廊下を歩き出した。
 「こんちは、しいねちゃん。今日も可愛いね♪」
 決してお世辞を使っているつもりでは無い。建にとっては女の子相手の通常の挨拶である。
 (実際、愛らしい少女なのだ、外見だけは。愛想はカケラも無いが。)
「あら、ありがとう。お上手ね、建ちゃんって」
という、およそ小学一年生とは思えない、気の無い返事だった。
 (あああ。しいねちゃん、姉貴に仕込まれてるなぁ…はよ、降りて来い、翔。レディを待たすな。) 
ついつい弟に助けを求めてしまう建だった。
 決してこの少女を嫌っているわけではないが、とにかく苦手なのだから仕方が無い。
そこに、ぱたぱたと翔が階段を降りて来た。
 「いらっしゃい。」
にこにこと出迎える翔を、しいねが、相変わらずの気の無い口調で促す。
 「こんにちは。じゃ、さっそく始めましょうか?あまり時間も無いことだし?」
 「じゃ、ボクの部屋行こう。」
くるり、と回れ右をする弟に、声をかける。
 「おい、翔。何始めるって?」
 「んー?あのね、練習するの。リコーダーの練習。」
 階段に飾ってある鉢植えの間から、そう返事が帰って来た。
 「あぁ、学校の宿題かぁ?…後でなんかオヤツ持ってってやろうか?」
 気をきかせたつもりの建の申し出は
 「いい。邪魔しないでー」
 「…お構いなく…」
という、なんだか取り付く島の無い返事と、子供部屋の扉が閉まる音で却下された。


その10分後。
 台所に戻って、じゃがいもの面取りを始めた建の耳を、なんだか形容し難い音波がつんざいた。
 思わず包丁を動かす手を止めて耳を澄ます。
 人よりはだいぶん性能が良いと自負している聴覚を、さらにけたたましい高音が襲った。
 「な、な、なんだ?」
 階段を上り、子供部屋の前に立つ。
 盗み聞きをする怪しい人物そのものの動きで、扉に耳をつけた途端、交通指導中のお巡りさん警笛のような高音が響き渡る。
 建は、たまらずに扉を叩き、弟を呼んだ。
 「おい?翔っ!?なんの騒ぎだ?おーい?開けるぞ?」


 子供部屋には、何も変わった物は無かった。
 音楽の教科書と、リコーダーの教本を広げているしいねと、リコーダーをくわえたまま難しい顔をしている弟の二人しかいない。
 「あ~。翔?…まさかとは思うけど、さっきからの怪音波は…?」
 「そうね。たぶん『春の小川』よ。建ちゃんが聞いたものは」
 「はるのおがわあぁ?!」
 素っ頓狂な声がでてしまった。
 春の小川?!
あの、小学校で歌う春の小川?!
 「どうかしら?合奏の調和を乱すかしら。これって」
 「乱すとかなんとか、すでにそういう問題以前だと思う…」
 建は、芝居がかった動作で両手を広げ、祈るように言った。
 「あああ。呪われた血だ…。翔。恨むなら、聡一を恨むんだぞ。かわいそうに…」
その途端、階下から、怒鳴り声がする。
 「おいこらっ!タテルっ!黙って聞いてりゃぁ、何勝手なことほざいてやがるっ!なーんでオレを、そこに出す?!」
 怒鳴り声の主は、聡一だった。
 本屋の包みを大切そうに抱えているところを見ると、お気に入りの推理小説を手に入れて来たのだろう。
 「タテルっ!おまえ、そこ動くなよっ!?」
そう言い残し、自室に入ってしまう聡一である。大事な本をちゃんとしまってから次の行動に移るつもりらしい。
 (その気の回りかたが、もっと日常常識に向けばなぁ…)
 身内の行動パターンを熟知している建である。


 子供部屋に入って来るなり、聡一は、建に詰め寄った。
 「おい?なんで、オレが翔に恨まれなきゃぁならんのだ?!」
 「帰って来るなりいばんな。…春の小川、おまえ吹けるか?」
 「?春の小川?… ♪はぁ~るのお~がわぁはー♪さらーさぁ~らぁーゆくう~よ~♪ってこれか?」
 室内が、一気に しん…と静かになる。
 しいねが、翔の肩を叩き、言った。


 「聡一ちゃんを恨みなさいね?」


 「…!!!」
 言いたい文句は有るのだが、言葉にならない聡一の視線を気にするでもなく彼女は、先を続ける。
 「だって、建ちゃんは歌が上手よ?」
 「で、で、でもっ!楽器は下手かもしんねえぞ?こいつもっ!」
 10才下の女の子相手の態度にはほど遠い口調で聡一は、急展開においてけぼりを食らい石地蔵と化してしまった弟の手からリコーダーを取り上げた。
 「こいつは」では無く「こいつも」なところが、聡一も、なかなか自分を知っていると評価できよう。
おざなりに上着のスソで吹き口を擦り、そのまま建に押し付ける。
 「さぁ吹け!!見事に吹いて見せろっ!」
なんだか、善良な村人を責める悪代官のようだが、気にしてはいけない。
なにやら対抗意識を燃やす相手からリコーダーを受け取った建は、余裕の笑みを浮かべると、舞台から貴賓席に挨拶するかのような仕草でしいねに向かって首をかしげてみせると、チョコレート色の吹き口を、唇に当てた。


  
 春の小川、がリコーダーから流れ出た。
 素晴らしく上手い、というわけにはいかないにしろ、普段触る機会が無いはずの男子高校生が突然押しつけられたとは思えないきれいな旋律が流れていく。


 しいねが、再度翔の肩を叩いた。
 「ね?聡一ちゃんを恨みなさいね?…まぁ、そう気を落としたものでも無いと思うの。音楽ダメでも、ちゃんと、いい高校行けるのよ?ねぇ?聡一ちゃん?」


そのセリフに笑い出してしまって建の唇から離れた自分のリコーダーを奪い返した翔が、半泣きになる。
 「もういいから!みんな出てってよぉっ!!」
 「…椚原くん?合奏会は明後日よ?…吹き口に、セロテープ貼る?」
 しいねが、刺さなくてもよいトドメを刺した。


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