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本を読むのが大好きだ。
けれど、読む本の種類はたいへんに偏っている。
そして、一度好きになった話はしつこくしつこく読み返す。

好きな本は手元に置きたい。
しかし、昨今本もお高いので。古本屋にはお世話になっている。
古本屋さんの本を毛嫌いする人もおいでになることだろう。
誰が読んだか、どんな人間が持っていたか、どんな環境で読まれていた本なのか。
綺麗好きな人や、潔癖症の人などには、そうとう手が出にくい分野かと思う。

けれど、私は古本に(前の持ち主の痕跡)を感じるのが好きだ。
この本の前の持ち主は、この物語の何処に惹かれ何処を好きになったのか。
想像するのはなかなかに楽しい。

今日、手に入れたのは
『幻想小説名作選』日本の作品しか載っていない。
予想を裏切られる読後感の悪い、ふっと誰の後ろにも立っている何かが居るような
そんな日本の作品集。
静かに静かにズレテイク日常を短編で描き切ることに憧れる。

収録作品一番手は、夏目漱石の『夢十夜』。
怖えぇぇ。最初からそくそくと薄っすらと解決されない奇妙な怖さだ。
そして読み進み『第八夜』まで来た時だ。
いきなり、私の前に、この本の以前の持ち主が見えない重力のように立ち現れた。
それはもう見事にだ。

第八夜は、床屋に行った主人公の語りから始まる。
床屋の椅子に座り、目の前の鏡に映る自分の姿や、往来を行き来する人の姿を目にする主人公。
ここで、文章の段落が変わる。
次の一行の始まりは 『庄太郎が女を連れて通る。』

ここだ。ここに、以前の持ち主が、まるで待ち伏せをしていた何かのように私の前に現れたのだ。

『庄太郎が女を連れて通る。』このなんでもない一文が、以前の持ち主によって。
まるでたったいま、鉛筆を固く握りしめて力を込めてつけた印のように。
濃く、はっきりと、歪んだ楕円でギチギチと囲まれているのだ。
そして、『女』の一文字めがけて一直線に、これも力任せに濃い鉛筆の跡が長く曳かれている。
その鉛筆書きの線の先にあるものが。

   み ど り ちゃ   ん

名前だ。これは女性の名前だ。 この一行に出てくるだけの、女としか書かれずそれ以後は一切出てこない通行人に、以前の持ち主は、何をここまで憑りつかれてしまったのだ?
鉛筆で、力を込めて塗り込まれたぎちぎちとした線の妙に歪んだ書き込み。
まるで、目の前に書いた本人が居るかのような。


  み ど り ちゃ    ん

何故、庄太郎の連れていく女を(みどりちゃん)と決め付け、名付け、そう呼んだのだろう?
以前の持ち主にとって(みどりちゃん)とは誰だったのだろう。

古本屋で手に入れた、少し茶色くなった紙面にそれでもなお残る黒い名前。

434頁の『幻想小説名作選』の中で最も怖く印象に残る物語の作者は、この(以前の持ち主)だ。



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