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「  」
◇◆◇


書いた本人さえ、登場人物名を忘れそうになっているので、改めてざっくり紹介。

椚原聡一(くぬぎはらそーいち)
高校1年。長男ポジション。スポーツ万能成績優秀なれど、音楽芸術関係が全てを飲み込む残念さを誇る。

屋敷建(やしきたてる)
高校一年。次男ポジション。聡一の従兄(父親同士が兄弟)。早くに父を亡くし椚原家で育てられた。家事全般を受け持つ。

椚原翔(くぬぎはらかける)
聡一の弟。小学一年生。

藪茂 しいね (やぶしげ しいね)
小学一年生。屋敷建の親戚。(母親同士が姉妹)つまり椚原の二人(聡一、翔)にとっても親戚。

藪茂由香里(やぶしげ ゆかり)
今回初登場。しいねの母。屋敷建の母の実妹。

◇◆◇

椚原家の長男ポジションである、椚原聡一は、彼が通う高校の南校舎と北校舎にはさまれた、日当たりのいまいちよくない中庭にある花壇の間を、急ぎ足で歩いていた。

放課後の校舎は賑やかだ。
やや調子の外れたトランペットは、北校舎の3階奥の吹奏楽部から。そのファンファーレを追うように、勢いよくドラムとシロフォンが響く。マーチングバンド部だ。ピアノに合わせた合唱に、「ファイッ!おーーー!!」と、運動部の掛け声が重なる。

聡一の通う高校は古い歴史と偏差値の高さを誇る名門校であり、文武両道、生徒の自主性を重んじる自由な校風でも知られている。そんなわけでクラブ、部活、同好会の類はとても数が多い。中庭を抜け、体育館に続く渡り廊下の踏み板を、土足で踏まないよう飛び越す聡一に、体育館の入り口でスポーツバッグを抱えた体操着の男子が声をかける。

「あれ?椚原ー?今から部活?」
「おぅ!」
「なんだよ、制服で?今頃」
「化学!!つーわけで部活に遅刻しそうなんだ、またな~」


「当番かー」という相槌を背中で聞きながら、聡一は走る速度を上げようとし……柔道着を着た一団に行く手をさえぎられ、その場で足踏みをするはめになった。
(あー、もう!)ごたごたと団子になって走り過ぎる柔道部の横をすりぬけるように体育館の壁沿いに向かう聡一。
彼のこの部活遅刻状態は全て、化学の当番に当たってしまった事から始まっている。
まず、化学室のある実験棟が校舎から遠い。
そして時間割は7時限目、最後の授業である。
さらに、当番である聡一はジャンケンで負け、化学室に鍵をかけ、その鍵を化学担当の教師に届ける係りになってしまった。
トドメは、いつもなら化学室の隣にある準備室に居るはずの担当教師が、今日に限って本校舎の職員室に戻ってしまっていたのだからたまらない。


「遅くなりました!1年はいりますっ!」
聡一が大声で挨拶しながら部室の扉を開ける。
「椚原?」飛び込んできた後輩の顔をたしかめるように、3年の部長が目を細めた。
1,2年の姿は無く、部室はガランとしている。
(あっちゃー。もうランニング行っちまったのか)
「すいません!遅くなりました!」再度挨拶をする聡一に、部長が言った。
「部活休みだろ?どうしたんだ?」
「へ?」
「椚原は、保護者から帰宅させてくれと連絡が入ったんで、部活は休みだって丸先が言ってきたぞ?」
丸先、とは部活の顧問である丸山先生のあだ名だ。顧問の教師に、保護者から電話が入ったのだと部長は言う。
「いえ、俺何も聞いてません。ちょ、ちょっと失礼します。ケイタイ使用してよろしいでしょうか?」
「あぁ、早く家に帰れよ?」
学校の敷地内では使用禁止が建て前の携帯を取り出すと、そこには着信アリの表示が光っていた。
「うわ、由香里さんから!」
「いいからさっさと帰れ」


追い出されるように部室から出された聡一は、ひとつ溜息をつくと、もう一度携帯のメールを読み直した。
メールの文章は『寄り道しないで帰って来てください。』という、実に簡単なものだった。
差出人の名前は『藪茂由香里』
この名前には逆らえないし、逆らう気も無い。


聡一が自宅に戻り、制服のまま茶の間に顔を出す。
畳敷きの和室と、フローリングの洋室が半々になったような作りの、その茶の間で、椚原家の二男ポジション(本人はこれを否定している)屋敷建が、いそいそと茶を淹れていた。
フローリングのソファには、春物の薄手のカーディガンをはおった女性が腰かけて、彼女の(マイ湯飲み)でゆったりとお茶を飲んでいる。
女性の名は、藪茂由香里。建の叔母であり、両親そろって海外出張中の椚原家の子供たちの保護者役である。


薮内由香里と、椚原家の付き合いは深い。
屋敷建の父である屋敷築は、椚原聡一の父の実弟だ。
建築家、それも美術館やコンサートホールを設計する建築家を志した築は、高名な建築家であった屋敷司郎に師事し、日本よりむしろ海外での評価の高い建築家となった。
師である司郎には、娘が二人居て、姉娘の屋敷美知と恋中になった築は、彼女と結婚し屋敷姓を継いだ。

息子の建が生まれる頃、海外での仕事が多かった築は、丁度同じころ子供をさずかった兄夫婦の家、つまり築の実家に、妻の美知と赤ん坊の建を預けた。美知の実家である屋敷の家は、人里離れた山奥にあり、建築家としての才能は素晴らしいがそれ以外には問題山積みの司郎のおかげで、お世辞にも母子に良い環境とは言い難い家だったので。

兄嫁である椚原鹿乃子(くぬぎはらかのこ)は、この同居をむしろ喜んだ。大歓迎した、と言っていい。聡一の母である鹿乃子は、文化人類学者であり、オセアニアの奥地に単独フィールドワークに入ってしまうような活発な女性だった。どちらかというと、おっとりとしたインドア派の優しい性格だった義妹の美知を、義姉である鹿乃子のほうが頼りにする有様だった。
美知の人柄と家事育児能力とに、すっかり安心した鹿乃子は、安心しすぎて自分の息子である聡一を、美知にまかせて、仕事に復帰してしまった。
つまり、職場であるオセアニア奥地に出向してしまったのだ。
かくして、幼い男の子を二人抱えて、てんてこまいしている美知の住む椚原家に、美知の妹の由香里が手伝いにやってきたのである。
聡一と建にとって由香里は、姉のような、半分母の様な存在だ。


「由香里さん。何かあったんですか?」
茶の間に上がり込む聡一を、由香里が、マイ湯飲みをテーブルに戻しながら、やんわりと止めた。


「おかえりなさい。聡一ちゃん、急に呼びだしてごめんね。まぁ、着替えて来てね。あ、建ちゃん、このお茶美味しいわ、おかわりちょうだい」
「…はい、はい。着替えて参ります」


トレーナーにGパンという私服に着替えた聡一が、茶の間に戻ると、由香里はソファから畳の座布団に移動していた。
「姉貴、このセンベイも食べる?」
母の実妹であるこの若い叔母を「姉貴」と呼ぶ建が、お茶菓子で接待している。
「由香里さん?話って?」
対して、聡一は藪茂由香里のことを(由香里さん)と呼ぶ。
この呼称の違いは、聡一が由香里に対して他人行儀にふるまっているわけでは無い。


◇◆◇ 


 


続く


 


 


 


 


 

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